ゾンビさっちゃんのラブ全開!

もうすぐ70歳になる余命宣告を受けたがんサバイバー。 病室でブログを開設!

やる気の炎をつける人

オットは、思い立ったらすぐ行動の人だったので、あたしはそれについていく(もしくは待つ)のに必死な時もあった。

「明日、大阪行ってくる。」

と言ったまま1週間帰ってこないこともよくあった。

「塾はどうするの?」

「臨時休業!」

そんな簡単に休めるものではないので、あたしが代わりに勉強を見るんじゃけど、チンプンカンプン。学年ごとの教科をそれぞれ、授業で進んでる通りに教えることなんて、到底できない。

でも面白いもので、子どもたちはオットの帰りを待っている間、とてつもなく頑張るのだ。いないときこそ成長する子どもの心理はどういうものなのだろうか。

おそらく、オットに褒めてもらいたかったのだと思う。

いつもは、なかなか進まない問題集の模擬テストの復習に全力を注ぎ込んで、帰るときには放心状態になっている受験生。

漢字を何度書いても覚えられないから同じ漢字を30ずつノートに書いて、必死に覚えていた4年生の男子。

宿題をするだけのために通っている中学生の女子が、突然数学の問題集を狂ったように解き始めたり。。

こんな姿をオットが見たら泣くな。。。と思いながら、あたしはそれを眺めていた。


当時は、学力至上主義の時代。どうしても学校の勉強について来れず、なんとかしてその子のいいところを伸ばしてやりたいと奮闘していたオットは、毎日夜中まで「教育」の勉強をしていた。

ある日、オットは私に聞いた。

「さちこ。学習障害って言葉、知っとるか?」

聞いたこともなかった。知らんねぇ、と答えると、

「孝則(仮名)はこれかもしれん。LDというらしい」

周りからは、なまけ者と揶揄され、読み書きが極端に苦手で、算数も九九は全滅。時計を読むのも一苦労。知的発達の問題ではなく、先天性の機能障害といわれる学習障害。

オットは「学習障害」情報を仕入れようと必死の毎日だった。

色々煮詰まると、オットは急に思い立ったように旅に出たのだ。

大阪に行くと言って出て、1週間後。
戻ってきたオットは、人が変わったような表情で、

「さちこ。わかったぞ!すごいことがわかった!」

と、ノートを私に惜しみなく見せてくれた。

その一部をまとめたので、読んでくりゃれ〜

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大阪、発達障害・学習障害の子どもたちを預かる高校の一室。

塾を運営しているオーナーや、塾頭、室長が集まるセミナー。

講師は有名塾の名物先生、当時その塾のオーナー。

 

セミナーの講師は、これからの塾はいかに金をかけて宣伝して、いかに休みごとの講習で人を集めるか。私立中学校への受験対策は、繰り返し問題集・ドリルをさせ続け、厳しく指導するに限る。スパルタが一番効く。恐怖政治ありきでやるべし。

みたいな内容に終始。押し付けがましい言い方が耳障り。

30分ほどの講義の後、質問コーナー。

一人の若者が立ち上がる。

質問というより、抗議。

セミナーよりも深く熱い、講義。圧巻。

和歌山で経営している塾のオーナーの横に座っている、その部下らしき若者。言葉は丁寧だが、完全に喧嘩腰。食ってかかって面白い。


これからの塾は、いかに、一人一人に対し、心のこもった指導をしていくかにかかっているのではないか、それは講師の人間力にかかっているのでないか、という持論を展開。

生徒が先生の人柄に惚れ込んで、生徒はクチコミで増えて行き、親を巻き込んだ丁寧な面談で、講習のコマ数を適度に提案し、子どものカルテを作り、親へのメッセージも書き、先生が生徒に出来得る全てをやってこそ、効果が上がり、生徒数も増えていく。

あなたが言っていることは、一見正しそうに思えるが、子どもの気持ちがわかっていない。勉強の前に、宣伝活動の前に、ドリルの前に、まず、子どもの気持ちに寄り添うことだ。

子どもは、自分の未来のために勉強してるとは思っていない。未来なんて、わかるはずがない。夢だって、大人が用意したレールでしかない。

子どもは、ただ、身近にいる人の喜ぶ顔を見たくて勉強しているだけだ。

子どもたち、一人一人の声を聞いたことがあるのか?

毎日、机に書き込んでいる落書きを読んだことがあるのか?

子どもが本当にやる気が出る方法を知らずに塾をやっているのは、先生をやっている意味がないのではないか?

熱くたぎる言葉の数々。講師タジタジの爆弾発言を、40人の塾代表の前で話す若者を、和歌山の塾のオーナーらしき人物は腕組みをしながら聞く。

講師は苦し紛れに、

「あんたのゆうてることは、理想やで。そんな理想が可能になれば、そら教育は変わるわ」

という一言で、ようやく、若者のためにオーナーが口を開く。

「その理想が、うちの塾の理念であり、わしらがここに来てる理由や。な。そろそろ帰ろか。子どもたちんとこへ」

若者は、熱くなってしまった頭をガシガシかいて、熱くなり過ぎた自分を恥じて、講師に頭を下げる。

「生意気なことを申しまして、大変失礼いたしました。申し訳ありませんでした。」

その場にいた全員が、一気にその若者のファン。してやられた。

二人は、早々に立ち去っていった。

残された塾のトップたちは、憤然とした講師抜きで懇親会。

これからの塾経営を担う人々の熱い会話は若者に火をつけられたため盛り上がる。

翌日から近畿圏の塾の見学を約束。

大いに学ぶ。

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オットは帰ってくるなり、ノートに書かれてある若者の話を熱く語り、これからの塾経営に大きなヒントをもらって、それを本当に実践していったんじゃ。

今やっていることの正しいところと、そこをもっと良くしていくためにはどうすればいいかと、孝則のために新しいカリキュラムを作ることと。

それを実践した結果、合格率100%の個人塾になった。

ちなみに、そのセミナーの講師の塾は落ちぶれてしまった。つまり消えて無くなった。超有名塾やったが。

一人一人に向き合い、子どもの声を聞き逃さず、小さな表情の変化を見極め、わからないところを何度もやり直し、これからの学びがワクワクできるように、そして勉強をする理由をそれぞれに定め、誰のために、なんのために学びたいのかを決めさせ、子どもたちにやる気の炎をつけていったんじゃ。

炎をつける方は、遠くでチャッカマンをカチカチ操作するのではない。

オットは言った。

「自分が燃えていないとまずはダメなんじゃ。その燃えている状態で、子どものそばに行って、まず子どもを暖めてあげるじゃろ。そうすると、だんだん心が溶けてくるわけだ。溶けてきたら、その子が抱えている問題を拾いまくる。溶けないとしゃべってはくれんからの。

解決できることは、すぐに解決。できないことは一緒に考える。

それでもダメなら親を巻き込む。

それでもダメなら先生に協力していただく。

それでもダメなら、、と、手を尽くす。

そういう大人の姿を見て、子どもは、この人のために頑張りたい。と思えてくる。

この人を喜ばせたい。となるもんで。

そうなると、僕は、もちろん嬉しいし、その頑張ってくれた子を褒めることができる。褒められた子は、また力を出す。いい循環が生まれる。

教育ってのは、難しい。時間がかかる。

心を全部使い切る覚悟が必要じゃ。

でも、諦めずにやり続けることで、未来の日本は明るくなる。」

そう言い放ったオットを、あたしは今でも誇りに思う。

あなたが教えた子どもたちは、今頃きっと、人に教えとるよ。

「人のやる気の炎をつけたいなら、まず自分が先に燃えよ」と。

そして、しっかり燃えて、生きとる。

あたしをゾンビと呼んだナアスもうりちゃん。あんたのことじゃよ( ^ω^ )



▽オットの手記による、実話を元に、ドラマ脚本書いています▽