従兄弟のカズは、いつも明るい。自分の評価はどえれぇ低うてびっくりするが、とにかく努力家であるのと、記憶力がずば抜けて高いのは、オットの血族の所以。どんなに山奥に入っても、目隠ししてどこかに連れて行かれたとしても、ちゃんとスタート地点に戻ってこれる特技を持つ。本編には関係ないことではあるが、カズの人となりを紹介しておくことで、今回の話題も頷けるはずじゃ。
赤T青年が海に飛び込んでからの情景を、ゆうや君からのインタビューと、自らの記憶を総合してまとめた文書がある。今日はそれを丸ごと紹介する。
お母さんのせいじゃない
~カズメモより全文~
船の旋回を待つ間。赤T青年は緩やかな波のうねりの中を動かずに待っている。100メートル以上は離れてしまっている状態で、水温の低いままゆっくり死を待つ気持ちだろうか。幼い子供の呼吸を確保しながら、自分が溺れてはいけない状況。
ゆうや君:フェリーに救助されるまでの25分の間に、お兄ちゃんが僕に言った言葉の全て。
呼吸が戻った後、パニックになる子どもを落ち着かせるための言葉。
「よし!(右手を高く上げる)はははっ(笑)びっくりしたやろう〜!もう大丈夫。大丈夫だからね力を抜いてね。
ははははっ(笑)
お名前は?「ゆうや」ゆうや君か〜いい名前だねえ
今いくつ?「5さい」おお〜年長さんだね。もうお兄ちゃんだ。
苦しいか?「だいじょぶ」強いねえゆうや君は!
海の水ってしょっぱいねえ(笑)「(うなずく)」喉も痛いし。鼻の奥もツンツンするし。お兄ちゃんも一緒。あーしょっぱい!
でもほら。空を見てごらん。上を向いてると、少し楽になるのが分かる?口で息をして、たくさん吸い込むと、今冷たいけど、少しずつあったかくなるよ。
一緒にやってみよう。吸ってーーはいてーー吸ってーーはいて。うまいねえ。今度は、グーチョキパーしてみるよ。さんはい。グーチョキパー。グーチョキパー。上手!」
僕は、お兄ちゃんのいう通りに吸ってはいてを繰り返す。グーチョキパーも何回もした。が、だんだん吸えなくなってきて、指も動かなくなってきた。お兄ちゃんは、それを確認して、よし、歌を歌おう。
と言って、アンパンマンのマーチを歌い始めた。それがしかし、歌詞が混ぜこぜ。違うんだけどなあ、、と思いながらも、お兄ちゃんが一生懸命に歌ってるんだからと、それに合わせて歌った。大きな声で、力一杯。乗せられて、とにかく元気よく。
何回も歌った。歌わされた。
今思えば、低体温症にならないようにするための措置だったとわかる。疲れて眠くて仕方がなかったけど、歌のおかげで睡魔からの脱出が出来た。
歌ってるとやっぱり楽しくなって、笑顔で歌ってるお兄ちゃんが、僕の不安感を全部とってくれた。
あともう少しで船が横に、、という時に、お兄ちゃんの顔半分が海に沈んだ。浮き輪が薄くて軽いから、僕が乗ってるだけでは沈む。自分は浮き輪につかまらず、ずっと立ち泳ぎしていた。
それと、右手で僕を支え続けていたので、力がなくなってきた。顔も青いし、唇は紫色。震えながら静かな声でお兄ちゃんは言った。船の上の叫び声や大人たちの励ましの声にもかき消されないほどの美声。今思えば、遺言のつもりで言っていたのかもしれない。
「奇跡は起きるんだ。君は、海に飲み込まれて、もしかすると死んでいたかもしれない。なのにこうしてもうすぐ助かる。それは、大きな意味があるんだ。君は、将来必ず、人を助ける人になる。どんなに小さなことでもいい。目の前に悲しいことが起きたり、見たくないようなことが出てきた時も、そこから目をそらしちゃダメだよ。
それと、お母さんの気持ちをよーーーく考えること。君が海に落ちたことで、お母さん自身が君をちゃんと見ていなかったことを自分で責めるし、そんな自分に罰を与えようとする。自分を苦しめようとする。それをさせちゃダメだからね
今日のこと、お母さんのせいじゃない。
君が甲板で遊んでいて、勝手に落ちたんだ。君が悪い。お母さんのせいにしないこと。一生、君は、自分が悪かったことを曲げちゃダメだ。お母さんの心を守ってあげるんだよ。
そして、もし僕が今、ここで沈んで死んじゃったとしても、君のせいではないってこと。僕が、勝手に飛び込んで、君とこうやって話がしたかっただけ。それだけなんだ。
自分の心のまま、正直に動くと、こうなるんだ。そうすれば、奇跡が起こるんだ。
奇跡は、人の心が動いて、なぜかそのまま体が動いて、相手との思いが繋がって、神様が応援してくれて、最後はうまくいく。
まずは、人の心。お母さんの心。君のために心配してくれているフェリーに乗っているみなさんの心。船の船長さんも、船員さんも、みんな心があるんだよ。人の心を大事にすれば、絶対に無理な問題でも解決しちゃうからね。」
すでに朦朧としている赤Tお兄ちゃんの言葉を全て僕は、聞き逃さなかった。絶対に忘れてはいけないことだと本能でわかった。だからお兄ちゃんの言っていることを全部覚えた。あんな状況だからこそ、僕の脳みそが頑張って集中してくれて、この人の言葉を全部信じようと、動いてくれたんだと思う。当時はまだ5歳、お兄ちゃんはもっとわかりやすい言葉で伝えてくれていたが、俺に伝えやすいように今回意訳したと。
それにしてもすげえ男がいたもんだ。
メモ以上
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あの状況で、子どもの将来のことを考え、そのお母さんのことを考え、人の心を大事にすることは、それが行動に繋がっていくことを教え諭す。ゆうや君もなかなかの賢さを持ってそれを受け取った。
極限の状態で交わされたこのやりとりは、ゆうや君の人生に大きく影響していくことになるんじゃ。
続きは、次。最終回をお楽しみにしてくだされ
〜ゾンビより愛を込めて〜
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