ゾンビさっちゃんのラブ全開!

もうすぐ70歳になる余命宣告を受けたがんサバイバー。 病室でブログを開設!

【あなたに渡したいもの】5 〜真心とは何か〜

山里先輩とあたしとの会話の中で、強烈に印象に残っている場面がある。

「私に足りんのは、可愛げ。あんたにはそれがある。私は何事にも真っ直ぐすぎてあかん。自分じゃ止められんのよ。心が決まってしもうたら終わり。気ぃが済むまでまっしぐらじゃ。これはあかん。可愛くない。」

あたしの場合は、あかんかったら自分だけのもんにせんと、甘えてしまうっちゅうだけの戦法であって、つまりこれは裏技じゃけえ褒められたもんじゃない。可愛げを発動させるというより、おんぶにだっこ作戦じゃの。

おんぶしてもろうたり、抱っこしてもろうたりしてるうちに、情が湧いてくるじゃろう?すると、頼み事をしても、相手は断りにくうなってくる。何度も使わんが、あかん時は甘えてみると、案外うまく行くもんで。

そうすると、実は、甘えられた相手も喜ぶんじゃな。ウインウインの関係になる。

そんな話を酔っ払いながらしてると、先輩は笑ってあたしを指差して、

「あんたはね。」

と言って笑った。次の言葉を待っていたら娘がその言葉の跡を引き継いだ。

「ずるい」

「そ!ずるい女!」

先輩と娘がハイタッチするのを横目に、確かにな(^-^)と納得。

あたしは、小賢しいのだ。鼻にかけるつもりは全くないが、小狡いのだ。昔からそういう女だった。娘にも見破られていたなんて、面白すぎるw

先輩が、自分のことをマイナスに語ったのは、その一回きり。完全無欠の先輩にも劣等感があることを知った日になった。

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その時は、自分が胃がんになってしまうとは思いも寄らなかったであろう先輩が、こんな言葉を私に投げかけた。

「ね。あんたがもし不治の病に侵されてしまったら、どうする?」

あたしは即答した。

「ジタバタしません。その日(死)を静かに待ちます。」

先輩は笑って言った。

「嘘。」

娘も笑って言った

「ウソだ〜」

二人はすでにチームになっている。

「あなたは、必ず助かるの。」

娘も大きく頷いている。

「不治の病でしょう?もうだめってやつなのに?」

「そ。」

「そ!」

娘が調子に乗ってきたからちょっと睨んだあたし。

それでも娘は、座っている先輩の肩に手を置いて「私は一歩も引かない」という姿勢をとった。臨戦体制じゃな。あたしからの、あんたら覚悟しいや、的な目線はもう効力はないに等しい。こういう時の娘は、てこでも動かん。

「お母ちゃんは、病気になっても大丈夫だから。」

「なんで?」

「私が治してあげる。」

娘は笑わずに言う。そんな娘に先輩は微笑んで、

「それはこっちのセリフじゃ。私があんたを絶対に治す」

ちょっと待ちいよ。あんたら突然なんじゃ?あたしがまるで必ず不治の病にかかってしまうことを知っているような口振りで、、、ちょっとなんだかカチンと来た。

キッチンでおつまみを自分で作って、それをちびちびとつまみながら、立って日本酒を飲んでいたのぶさんも参加して言った。

「君の命が永らえるなら、僕もなんでもするよ。」

あたしたちの会話を静かに聞いているだけのオットが、初めて参加した言葉がそれじゃった。

あんたたち。あたしをそんなに生かしたいの?

聞くまでもなかった。

3人の目の奥にある優しい光は、あたしの心を射抜いていた。あたしを「絶対に生かしたい」という気持ちが、音を立てて押し寄せてくる。

溺れそうなくらいの愛情を感じて、自然に涙が溢れてきた。

娘が、あたしの感情を察してか、先輩の横から離れて、あたしのところにやってきて、座っているあたしの左肩に顎を乗せて、両手を首に回して言った。

「お母ちゃんは、死んだらあかんで。な。」

なのに、なんじゃい。そう言ってくれた娘も、あたしを治すと豪語した先輩も、なんでもすると言い切ったオットも、先に逝ってしまったよ。

しかしじゃ。

こうして病気になっても、できるだけの延命をしてもらい、痛みを我慢してでも命を繋ぎ、あたしを愛してくれる人たちの思いを受け取り、全力で生き抜こうとしているあたしがここにおるわけで。

病気に勝とうなんて思ってはおらん。闘病しているつもりもない。3人にもらった愛情と、今いただいている皆さんからの愛情にしっかり甘えて、ずるい女と言われようとも生き抜く所存じゃ。

それではお待たせしたのう。あたしの可愛げを褒めてくれた先輩の、可愛げ満載の日記の続きを読んでいただこう。


・・・・・・・・・


のぶさま

落ち着いて読んでください。

お義母さんの日記は、凄いです。

あの8日間で、鈴木さんから頂いたこと、学んだこと、感じたことも全て、お義母さんの生き様となっておりました。主人も「ああ、だからかあさんにあの時そう言われたんだ。」とか、「なるほど、あの言葉はそういう意味だったのか。」とか、日記に書かれてある言葉の数々に、うんうんと納得しながら読み進めております。

まだ全てを読み終えることができませんが、素敵すぎますので、少しずつのぶさんにお送りいたします。鈴木さんにお伝え願えれば嬉しいです!



12月20日

私の心の中にある大切な言葉を、人に伝える立場になってから、時折口では言ってるけど、書き残してないことに気づいた。この日記で少しずつでも書き残していこう。
鈴木さんのトリアージに失敗した桑原看護師を救った言葉は、シンプルで、愛が溢れ、奮起させるもの。

コピー糊付
ナースステーションのカウンターに置いてあった筆書きの手紙全文まま(※旧名称まま)。

名前がわからず失礼いたします。受付で僕を助けてくださった看護婦さまへ

まずお礼を。助けていただき、ありがとうございました。待合のベンチで、やっと病院にたどり着けた喜びで満面の笑顔だった僕に、的確に質問してくださったあなた様に心から感謝いたします。質問に答える僕に対し、僕の痛みや苦しみをわかろうとしてくださった言葉がけに、本当に感動しました。
顔を歪めて、「それは苦しかったでしょう」「よくここまで運転してこれましたね」「すぐ先生に診てもらえるようにしますからね」「もう少しの辛抱ですよ」その表情をみて僕は、心から安心しました。助かった!と思いました。しかし、安心すると、こらえていたものが急にこらえきれなくなるみたいで、我慢の限界がきてしまい、息が苦しくなってしまい、思わず倒れ込んでしまいました。その時、真っ先に駆けつけてくださったあなた様の姿をうっすらと覚えております。必死の表情で駆け寄ってくださったその一瞬が、今でも記憶に焼き付いております。この病院でよかった。と心から思えた瞬間でした。しばらくご厄介になります。どうぞよろしくお願いします。

受付で助けてくださったあなた様へ

 

当時、救急の患者が二人おり、後回しにされてしまった鈴木さん。その鈴木さんの緊急性を判断できなかったとして、会議での厳しい追求があった翌日のこの手紙に、桑原さんは号泣。他の看護師たちももらい泣き。私はその時点から、鈴木さんの「人に対する姿勢」が、普通の方とは違うことに気づく。

鈴木さんに対し、なぜあの手紙を書いたのか、を質問した私は、また驚く。

「僕は、仕事を一生懸命している人を尊敬してしまうんです。尊敬しちゃうと、心が止まらなくなって、言ってしまうんです。凄いねって。言えない時は、こうやって書くしかなくて。伝えたいんです。正直な気持ちを。それだけです」

真心だ。嘘のない本当の心。この人が言うとくさくないし、清々しい。純粋な心根が人々の心の泥を洗い流してくれる。こんな人が存在していることに、感動しきってしまった私だった。
表現しなければ。
人に対し、愛情を持って、自分なりの言葉で、真心を表現すること。
私がずっと肝に命じてきたこと。忘れちゃいかん。

1月30日

もう一月も終わる。少し悩ましかったことも今日で終わった。スッキリした。会議で言ったことをそのまま書く。

山里さんは、看護師に甘い。

というSドクターの言葉を受けて、私が言ったのは、鈴木さんの話。

「ずいぶん前に、ここに入院された鈴木さんという患者がいました。先生はご存知ないと思いますので、ここでご紹介いたします。

心臓の手術後の経過観察をしていた棚下さんの血圧を測る時、当時の担当医師と、一人の看護師が同行していた時のことです。鈴木さんが同室だったこともあり、医師と看護師の会話を聞いておりました。

血圧を測り終わり、病室を出て行こうとする医師に向かって、鈴木さんがこう言ったのです。

「先生、ちょっとすいません。一つだけ、いいですか?」

S先生は振り返って鈴木さんに驚いた顔で。

「何か?」

と。

鈴木さんは微笑みながら言いました。

「看護婦さんのことを、病室で怒るのはやめてもらえませんか?」

「え?」

S先生も当時の看護師も驚きました。その雰囲気を壊すようにやはり笑顔で、

「僕たちは、病人です。少しの不安が命取りです。その命を預かっている先生が、看護婦さんを不安にさせ、僕らまでを不安にさせるって、なんていうか、倫理に反してると思います。」

S先生は、体を全て鈴木さんの方に向けました。傾聴する姿勢を取ったのです。そうしてしまう威厳というか、高貴さが鈴木さんにはありました。

「できれば、もし叱るなら、誰もいないところで、一対一でやってあげてください。その方が、看護婦さんは「自分をもっと成長させようと考えてくれてるんだ」ってわかるでしょうし、「今度こそミスをしないように気をつけよう」「もっと先生に褒められるように精進しよう」ってなると思うんです。」

そう言って、少し照れくさそうに身をよじり、笑顔を消して言いました。

「と言いながら僕自身が今ここで、皆さんの前でこんな失礼なことを申し上げることは本当は怖くて仕方がないです。申し訳なくて、胸が痛いです。でも、ほんの少しのきっかけで患者さんたちは、気持ちを壊します。今のようなことで、この病院では自分の病気は治らないな、と思ってしまう人もいるかもしれません。それを防ぐためにも、言わなきゃ、と思って言ってます。申し訳ありません。」

そう頭を下げた時、その医師は、鈴木さんに言いました。

「鈴木さん、ご忠言。痛み入ります。鈴木さんのおっしゃる通りでした。お恥ずかしい限りです。患者さんの気持ちに寄り添わなくてはならない私が、全く不甲斐なしです。」

そう謝った医師に対して、看護師は、

「いいえ、すみません。私が一番悪いんです。手際が悪いのもあるんですが、私にはもうこの仕事、向いてないんじゃないかと、最近ずっと悩んでて、」

驚いた医師が、看護師に向き直ってこう言いました。

「向いてないなんて、それは違う。君は、誰よりも勉強熱心で、真面目にこの仕事に取り組んでいる。それは誰もが認めるところだよ。君には将来、人を指導する立場に進んで欲しいと思っているんだ。そうなれると私たちは思っている。」

ああ、だから厳しい指導を心がけているのか。。と、病室にいた全員が納得いく瞬間になりました。

鈴木さんの言葉を受けて、周りの人たちの心が、真心に変わっていく瞬間を私は目撃しました。

その医師は、現在大学で教授をされています。その看護師は、東京の心臓専門病院の看護師長です。

先生方は、看護師たちの思いを受け取っていらっしゃいますか?看護師を尊敬できてますか?それと同時に、患者に寄り添っていますか?

私は、先生方の目を見ていてわかります。さすがです。笑顔が出ている先生もおられますね。安心いたしました。この病院は安泰です。よかったです。生意気な発言をお許しください。ありがとうございました。

私が、たった一人の医師に対して話していることを皆分かってくれていたようで、ほっとした。きっと彼も変わってくれるはず。

 

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のぶさん!

これはもうドラマです!!!

カネボウのヒューマンドラマです!!!

キャーーーー!!!!

 

もう、心が追いついていかないです。切ないです。でも嬉しいです。

はあ・・・凄すぎます。

鈴木さんの言葉、山里さんと、その周りの人たちの人生も含めて。

素晴らしすぎます。

私の人生も、しっかり輝かせにゃおえんね!!!

続きはますます濃いです。

山里さんの心の葛藤が胸に痛いです。文章も短くなってきています。

体調思わしくない感じが出てきています。

でも続けます。最後まで。

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美奈さんは、これが自分の使命じゃから、と山里さんが亡くなる直前の日記も全て翻訳してくれることを決めてくれた。

おかげで、これを世の中に発信することができた。

和茂君も美奈さんも、このお話を公表することに賛成してくれたことに感謝。ほんにありがとうじゃよ。

次の記事が、この「あなたに渡したいもの」最終回じゃ。一途の曲を聴きながら聞いていただくことになる。

明日までお待ちを。

お昼の12時ごろにはしっかりまとめて公開する予定じゃ。

 

【あなたに渡したいもの】6 〜生きた証を残す〜 - ゾンビさっちゃんのラブ全開!



〜ゾンビより愛を込めて〜

 

 

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