ゾンビさっちゃんのラブ全開!

もうすぐ70歳になる余命宣告を受けたがんサバイバー。 病室でブログを開設!

掃除屋いっちゃんのプライド

今日は、あたしが心の支えとしてるお掃除屋さんいっちゃん(いつこさん)をご紹介♪

いっちゃんは、自分のことを「掃除屋」って言うんよ。彼女の手際の良さと、人に対する言葉遣いは荒っぽいけどなぜか最高に気持ちええんじゃ。

35年間、ずっと掃除をし続けてきた苦労人で、話す言葉に含蓄と愛がある。いっちゃんの格言を聞くたびに、あたしの心も大掃除されていくの♪

あたしがここにお世話になってから、実はずいぶん経つけど、最初の頃は「もうすぐ死ぬ人」確定!として入ったのね。確かに最初は、自分でも絶対アウトと思いよったよ。

 

3日は持たんな、、くらいの状態で、呼吸困難からの、腹痛、嘔吐、酸っぱいやつの逆流。不整脈。おなかは腹水でパンパンに腫れ、蛋白が下りて完全なる栄養失調だった。


でもって、あたしの心も最悪で、気丈に振る舞ってはいたけど、細胞を含め、魂ですらも、「はい終了〜〜〜!」のゴングを自分から鳴らし始めていたわけ。看護師としての経験から言っても、「ああ、あたしの人生の戦いは、最終ラウンドじゃ。オーマイガーじゃ。」と嘯きながら、頭ん中がカッカしよったんじゃが、その熱を冷ましてくれたんが、いっちゃんやった。

初めてあたしの部屋の掃除に入ってきた日のことは忘れもせん。まずその衣装に驚いた。

全身青色!ベルボトムのデニムパンツに、青いジャケット。帽子も水色のキャスケット。首に巻いたスカーフは藍染の絞り。白いシャツはパンツインされていて、ベルトのバックルがフェラガモ。かっこいい!!!

ハアハア、とだるそうにし、横になりながら衣装を目の当たりにして、実際目をまん丸にして驚いているあたしに気づいて、

「あんた、ここにゃあなんで来よった?」

喋り方は、つっけんどんなのに、表情が柔らかくてあったかい。あたしは声も絶え絶えに、

「癌性腹膜炎やけんもう助からんのよ」

と言ったらちょっと上を向いて、しばらくして、

「あんた。長生きしよるケェ。心配いらん。」

と言って、掃除が終わったらさっさと笑って出て行ったの。


何??なんなの?どこ見てそれがわかったの?なんでそう断言できるの?

 

あたしは気になって気になって仕方なくなってきた。

吐き気を抑える点滴をしながら、カウントダウンしているあたしにとって、そのいっちゃんの声を救いの言葉にするか、適当に言われた戯言にするか、選択を迫られた。

あたしは、あの颯爽とした、でも謎めいた掃除屋いっちゃんを信じよう。

と決めた。



二日後、いっちゃんが部屋に入ってきた。

「お、まだ生きとったか(笑)」

そりゃなかろう!と思うたが、いっちゃんの声が好き。早口なのに、滑舌がいいから気持ちいい。許せる。。

「なあなあいっちゃんよう。この前あたしに、、」

 

と言いかけたらすかさず割って入ってきて、

「あんたは長生きやーっちゃ。心配しなさんな。」

またそれを言う。ドクターでもないあなたがなぜそれを断言できるのか、を知りたいのー!だが、有無を言わせぬ紋切り口調。

「長生き、、できるんやね」

「できる。あんたは、この二日間でゼエゼエハアハアがなくなったやろ?」

「全部なくなったわけじゃないけど、いっちゃんのゆうたことが気になってしょうがないんじゃ。なんで、」

「ゼエゼエなくなったのは、ようなっとるからや。簡単やろ。でもってあんたは。」

 

あたしの言葉を遮り、ためにためて、あたしの近くに来てしゃがんで言った。

「でもってあんたは、まだ全部出し切っとらんけんね」

 

なんかわからん。わかんけど撃ち抜かれたー(*⁰▿⁰*)

 

全部出し切っとらん。

 

って例えるなら

 

歯磨き粉の最後のやつ。

 

マヨネーズのラストもう少し。

 

下痢してるときの残○感。

 

つまり!そんな中途半端な生き方でええんか?

 

といっちゃんは伝えたかったんじゃろか?

 

いっちゃんの仕事は、いつも抜かりないし、思いやりがいっぱいある。工夫も凄いし、自分の仕事ではないことまでやる。

 

ナアスからの信頼も厚い。

 

毎回、自分の力を惜しみなく使い切る。出し切る。しかも楽しそうに。

 

出し切るためには、まず自分に何が出来るかを知らにゃおえん。いっちゃんにはそれがある。あたしにはない。

 

こりゃまだ死ねんがよ!あたしには何があるんじゃー!!!!


しかし、あたしの身体中に、どんどんアレが転移していく中、いっちゃんはいつも変わらんかったんじゃ。あんたはまだ死なん。あんたは長生きする。自分を信じれんやつにゃあ、幸はなし。と豪語。そして、またあんたは長生きの一点張り。

あたしが出しきらなあかんもんはなんやろか。

毎日考えた。

しかし、さすがのあたしの心も、折れそうになる時もあってな、なんぼ考えてもわからんから、そんな時はいつも音楽を聞いておった。

まだAirPodsを導入してなかった頃じゃから、携帯電話のスピーカーでその曲を聴きまくってて、それを聴いていた最中にいっちゃんがいつものようにさっそうと病室の掃除に。

「何聴きよるん」

相変わらずいい声で、つっけんどん。

「あ、これな、あたしの師匠が作ってくれてな、」

「師匠がおるんかい。じゃ、おおきゅうして」

「ええよ〜」

と言って、一緒に師匠の歌を聴いた。


いっちゃんは、静かに聴いて、聴き終わったらハンカチで目頭をギューっと押さえて泣いた。

「あんた、ええ師匠もろたのう。こりゃ、あんた。やっぱ治るわ」

と。ずばり。

「こうやって出し切ってる人が、お手本じゃ。あんたも自分の出せるもん、出し惜しみすんなよ。恥ずかしいなんてゆうて逃げるなよ。師匠の声は真剣そのものやし、ちゃんと伝えようとしとろう。」

いつになく厳しめで、少し照れ隠しで帽子を目深に被り、しっかり掃除して出て行った。

出し惜しみをせず、誰かのために、面倒がらずに、時間をかけてでもやりきる。いっちゃんのプライド。

いっちゃんが伝えたかったことがそこで初めてわかったんじゃ。

自分で発見させようとするいっちゃん。師匠と似てる。

答えを言わず、ヒントを伝えてくれる。背中を見せてくれてる。

自分で悩んで考えて、答えを導き出させてくれる。いっちゃん。あたしのために、あたしの命を伸ばすために、あたしの気持ちにストレートに寄り添ってくれて、あたしを人として扱ってくれて、いつもこれみよがしな背中を、かっこいい後ろ姿を見せてくれていた。

そっか!!師匠(でぇれぇおもれぇ人)の歌を、まずはあたしがこの病院で一番聴き倒し、あたしが「これは素敵だ!」と思ったものは、みんなに紹介していく。そうすれば、少しは誰かのためになる。な!

そう感じることができたんは、いっちゃんのおかげ。

あたしの周りには、そうやって背中を押してくれる人が複数いる。姪っ子ハルもそうだし、ドクターもそう。ナアスもそう。天国のオットと娘もそう。

あたしは幸せもんじゃ。ありゃ。もう、幸子じゃわ( ´ ▽ ` )


ちなみに、師匠の歌は、お世辞にもうまいとは言えん。(前にも書いたやろか)

音が外れて、リズムもバッチリあってないこともある。

なのに、心に沁みる。

内緒でここに出しとるけん後で叱られるかもしれん。

それでも、出す。

出し切る!(意味違うか?)

 

命を詩にして♪

 障害者の主人公が不自由な手で書かれた歌詞。
強烈共感しちゃいます!!

 

辛い時のヘビーローテーソン。

 

 

 

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