ゾンビさっちゃんのラブ全開!

もうすぐ70歳になる余命宣告を受けたがんサバイバー。 病室でブログを開設!

フェリーを止めた男 3

あたしが感動するのは、この人は「怖がり」だってところ。できれば、恐ろしいところには行きたくない。お化け屋敷も苦手。高いところも苦手。狭いところも苦手。サウナも苦手。その後の水風呂も苦手。暗くて深い冷たい海ももちろん苦手。なのに、どうしてそれを無視して行動に移せるのか。

ただの"おバカ"?

としか思えぬ。。

目の前の一点しか見えなくなって、そこにまっしぐらに走る猫のような、自分なりの力学を持っているこの人をずっと観察していたいという感情。あたしはきっと、この人のそういうところが可愛いと思とるんだわw

さて、友人との旅行から帰ってきたあたし。オットに聞いた情報では満足できんかった。どうしても、現場に行って裏を取りたくなった。そんなに遠くはないし、オットに行きたいとせがんだ。


裏取り紀行:アンパンマン

祥子の熱い頼みを受け入れた私は、運転はハルに頼み、フェリー会社の近くに住む従兄弟と連絡を取り、まずは4人で会うことに。一緒にご飯を食べながら話しましょうと、アパートの裏にある小料理屋へ。

ハルと祥子がインタビュアーで、私はもっぱらメモ担当。泣ける。話している従兄弟自身が泣き濡れているので、我々もどうしても釣られて涙する。

まず、あのフェリーストップ事件から12年後のお話。

従兄弟が勉強して頑張って出世して機関士となったと。とはいえ、社会科見学の時などに説明する役目とか、機器のオイルさしで真っ黒になる役目などを当時、やっていたそうで。

毎回、港に入ってすぐ、従兄弟は元気よく甲板に飛び出して、着岸のロープを投げる。その顔は真っ黒で、ギットギト。油の交換をしている際に勢いよく飛び出してきて、それを止めるために顔で受け、そのせいで汚れ、それを袖で拭いたためにさらにおかしなことになってしまっていた。

その顔を、中学生が見てゲラゲラと笑った。

「おい、あの顔みろや。真っ黒じゃ!ははは、真っ黒おお!」

と野次った。その仲間も笑った。乗客もその顔を見てふふっと笑った。

従兄弟は、それに気づいて恥ずかしかったそう。聞かぬふりをしていた。しかし甲板は誰からも見られる場所。逃げ場はない。

すると、どこからともなくアンパンマンのマーチが聴こえてきた。

 

なにが君の幸せ なにをして喜ぶ

わからないまま終わる そんなのは嫌だ

忘れないで夢をこぼさないで涙

だから君は飛ぶんだどこまでも

そうだ 恐れないでみんなのために

愛と勇気だけが友達さ

ああアンパンマン 優しい君は        

いけ!みんなの夢 守るため     

アンパンマンのマーチ歌詞©️ NipponTelevision Music Corp.

ソングライター:Takashi Miki /Takashi Yanase


歌詞は1番ではなく、2番だった。大きな声で歌う彼に注目が集まったのは言うまでもない。伴奏も込みで歌っていたので、滑稽だったと。

従兄弟からは、その歌っている姿は見えなかった。しかし、自分への嘲笑がなくなり、ほのぼのした雰囲気が生まれ、やりきれない気持ちが一瞬で消えてしまったと。

その歌詞はまるで自分のために歌ってくれている内容で、勇気付けられたのだと。

「そうだ 恐れないで みんなのために」

ああ、そうじゃ。自分はこの仕事を選んで良かったんじゃ。どんなに汚れよっても笑われよってもええ。みんなが喜ぶことならそれが一番じゃ。

と気づけた。そして、お客様を笑顔で見送れたと。

その唄声の主は、くまさんが助けた少年ゆうや君の成長した姿だった。あとで繋がるので、別の話を続けよう。

少年は青年になり、やがて成人する。学生旅行の団体の中に、その子はいた。従兄弟への、アンパンマンの歌プレゼント事件から5年後。

従兄弟はさらに出世して、機関長になっていた。ここまでくると、コックピットで指示を出したり、海上の保安のための見回りや、救命ボートの点検など、他の船員たちにはできない小さな仕事をたくさんやれるようになっていたのだそう。

その日従兄弟は、風の中、学生さんたちに囲まれて、周りに見える島の名前を教えている青年の姿を見た。その自信に溢れた言葉遣いと、尊敬されているであろう周りの目の輝きが心地良く、爽やかな声に一種の懐かしさを感じた。

しかし、そこでも従兄弟は気づかなかった。やっと全てがわかったのは、彼が入社して10年目だった。

その頃、フェリーの営業不振が深刻になっていた。

島から島へ、橋がどんどんできてきたことで、フェリーの運営も厳しくなっていったのだ。 労働条件の改善をもとめ、社員たちがストライキを計画するという出来事があった。

そのとき、ゆうや君は、

「ストライキは、フェリーを利用されるお客様に迷惑がかかってしまう。だから賛成できない。他になにか手立てがあるはずだ。」

そんな考えのもと、ストライキの動きには参加しなかった。

みんなが幸せになれる、他の手立てがあるはず。

そこでゆうや君は、フェリーの運行予定が空く時間に合わせて、老朽化したフェリーのペンキ塗りをして、乗客が少しでも気持ち良く利用できるよう勤めた。

そんな彼の行動に、他の職員たちも影響され、みんながフェリーを綺麗することを心がけるようになった。

すると、自然と客足も多くなり、労働条件も改善されていくことに。

ストライキをゼロにした男として、会社で脚光を浴び、目立つ存在になって初めて、彼の仕事に対する姿勢が認められた。そこでようやく、自分が昔、このフェリーから落ちて救われた男の子だったことを、カミングアウトすることになる。

従兄弟はそれを聞いて当然びっくりした。居ても立っても居られず、フェリーの検査員として働いていた彼に会いに行き、自分が当時救助の現場にいたことを告げ、仲間を誘って一緒に飲みに行った。そこで、全部解明され、号泣。

酔っ払った従兄弟が、まだ油まみれの機関士だった頃の、アンパンマンの歌で救われた話をしたところ、

「それ、すいません。僕です。」

と照れて笑った瞬間、この人はあの時、わざと注意を引くために大声で歌い、その歌詞にエールの意味を込めてくれていたことを悟った。自分のために、歌ってくれたことを知ったのだ。

記憶を辿って、従兄弟は尋ねた。

「もしかして、学生旅行でこの船に乗ってなかったか?」

と。

「乗っていました」

と。ではその時なんで友達を連れてきたんだ?となり、その謎も解明された。

この瀬戸内の穏やかで優しい風景に感動しない人はいない。なのに、年々観光客は減る一方。このフェリーで島に渡るだけでも、最高の気分を味わえることを、たくさんの人に伝えたかった。それと、自分が助けられた場所に連れてきて、その時の状況を話して聞かせてることによって、人の命の重さと、今生きていることは当たり前ではないんだという事を、体験から伝え、より印象を強くさせて、思い出深くさせ、旅のリピートさせたかったと。

従兄弟は絶句。そこで全部つながった。

くまさんの、人とのご縁の強さを持っている力と同じくらい、従兄弟とゆうや君とのご縁は深かったのだ。

ゆうや君と従兄弟は、それからもよく話すようになり、フェリーを止めた男の詳細も明らかになっていった。そのメモを、次回まとめて出すことにする。

・・・・・・・・・・

この時の従兄弟のカズさんは、話しながら泣きながら、自分の仕事に誇りを持てたのはゆうや君のおかげだし、彼を助けてくれたくまさんのおかげだと仕切りに感謝しておった。

そんなカズさんが書いたメモは、なかなかの名文じゃで、続きをお楽しみにの

〜ゾンビより愛を込めて〜

 

フェリーを止めた男/劇人くまさん


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