オットは福岡の女神の神社でこの人に出会ってから、明らかに能動的になった。
よく動き、よく喋り、声が掠れすぎて聞こえなくなってしまうほどに、この人の話をしたくてしたくて仕方がないという、いわゆるくまさん中毒に陥っていった。
さ、前回の続き。
絶対にこの人だと確信したのは、その後、近くの居酒屋で二人で友情を睦みあえたからだった。
お互いに酔っ払い、店に置いてあったギターを弾き始め、昭和歌謡を一緒に歌いましょうとなり、歌が苦手なオットが乗せられて、松田聖子を歌ったと。
「のぶさん!あんた!聖子ちゃん!歌えるんかい!」
知らんかった。。。
「そんなことよりさちこ。この前、僕が塾の運営を波にのせたきっかけを作った人の話しをしたたじゃろう。あん時のあの人と、おんなじことを言ってたんじゃって。」
当時、塾を始めたばかりのオット。とにかく運営をもっと安定させたいと思い、良いセミナーがあると聞けば色々飛び回っていた時期があり、大阪で行われた塾のセミナーで熱い弁を奮っていた若者が居って。その話はここ、「やる気の炎をつける人」でしておる。
まさか当時の若者が、実際目の前にいるその人じゃったとは思いもよらず、熱い人はまだ日本におるんじゃなあと感心しておったオット。
「子どもの心に寄り添って、しかし大人としての威厳をもって、自分が勉強し、体験したことを生身の人間として伝えることが教育だと。頭で学んだことを右から左に伝えることは、机上の空論を伝えているだけです。だから僕は現地に行きます。自分で経験します」
そういうことを、真面目に言える人。それがオットの心の琴線をビンビン震わせた。午前2時くらいまで飲みながら。居酒屋の店主も参加して、最高の夜を堪能したと。
フォークソングと松田聖子の二本立てで歌いながら飲みながら、店主も涙もろくて可愛くて。日本の強さと弱さ、観光と物産の関係、農業と漁業の疲弊、世界に訪れる不安と希望、多岐に亘る話を飽きずにできたと。
よほど楽しかったみたいで、寝言でも
「いやはー!もう飲めんもう飲めんわ!はっはっは!」
と大笑いしていたり、出会って半年経ったある日の晩ご飯の時に、涙ぐみながら、ほんにあれは邂逅じゃったなあ、と同じことを何度も話したりなんかして。
よほど嬉しかったんじゃね(๑˃̵ᴗ˂̵)
オットは感無量で、
「いずれ一緒に」
と言った。
その人も、酔っ払いながら
「はい。いずれ一緒に」
この人と一緒に何かできる
と確信しないと、この言葉は吐けない。そして、
「この日本を、大いに沸かせましょう!」
オットは思わず口にしてしまったそうじゃ。
それに臆することなく、
「いいですね!!約束ですよ!一緒に!」
と笑顔で赤ら顔で。
「今日は、あなたに出会えて本当に良かった」
というオットの言葉に、その人はこう言ったんじゃ。
「僕もです。今日は本当に、ありがとうございました。体を大切にしてくださいね。絶対に無理はしないでください。僕がお手伝いしますから。なんでも言ってください。」
オットは
「この人は慣れている」
と思ったそうじゃ。お金にならないことを、喜んで手伝える人なんだと。
ずっとそうしてきた人じゃから、そんな言葉がスッと出てくる。
そこで初めて、加藤さんの予言を思い出したそうな。電話で、いずれ会わせてくれるというあの人とはいつ会えるんじゃ?と尋ねた時、
「ノブがもし、その人に会いたいと思うなら、いつかどこかで必ず繋がる。俺がでしゃばらんでも会えるさ。」
そう。実際に会えた。
そりゃ興奮して帰ってくるわけじゃ。
オットが言うところのウラの世界は、日の中の星みたいなもんじゃと。他の明るい光で見えないが、実はちゃんと輝きを放っている。その光は、誰にも意識されずに降り注ぎ、人の心に染み込んでいく。
まだ声が出ていた頃、オットは静かに天を見上げて語ったことがある。
「決して心がすごく強くもなく、むしろ気が弱いビビリな性分で、でもその人が、自分を奮い立たせて、重要な目的を決めて全力で動く姿を実際にこの目で見て僕は思ったよ。
人の強さというものは、優しさの上に立つもんじゃと。
本当に優しい人というもんは、怖くても傷ついても面倒でも嫌でも、誰かが泣いておったら迷わず飛び込んで助けにいく人じゃ。
それをそのまま伝えたんじゃよ。そうしたら、なんて答えたと思う?」
「照れて、恥ずかしがったんじゃ?」
「いや、僕は卑怯な人間なんです。これまで、どれだけ逃げてきたか数しれません。怖くて怖くて、大切な人を置き去りにして逃げてしまうほどの卑怯な人間でした。
それを今でも思い出すたびに苦しいんです。僕が今こうしてなんとかやっていけるのは、その時の申し訳ない気持ちがずっとのしかかっているからだと思います。
苦しめた人々への申し訳なさです。だから、ここで逃げると、またこうやって苦しみ続けなければならないという強迫観念というか、自分可愛さなんです結局。」
そう言ってしばらく黙ってしまったと。
「すごいね。傷つけた人への申し訳なさって」
とあたし。
「うん。自分を許せなくて、苦しみながらも、過去の反省をバネにしながら行動に移し、実際に結果を出していくことは、その人の強さだと思って、また言ったんだ。」
とオット。続けて、
「逃げたことがない人はいないと思います。人間は、そういうものですよ。都合の悪いことから逃げて、なるべく死なないように生きる。本能です。間違っていませんよ。それでいい。でも、その経験があるからこそあなたの今の動きのモチベーションになっているとしたら、それは全て理由のあることだったと思います。」
するとその人は、うんうんと頷きながら笑顔になって、オットのエールを素直に受け取ってくだっさったと。
「僕は、一生かかっても償えないほどの大罪を犯した身です。この恥ずかしさは、僕の中の消えない罰だと思っています。それを消すことはしません。
でも、もう逃げません。よほどのことがない限り。
そりゃまあ家族の安全を脅かすものに襲われたら、一目散に逃げますが、自分一人で戦える場合は向き合います。めっちゃ怖いけど。」
オットは、感銘を受けたそうで、その時の会話を何度も繰り返しては涙ぐんでおった。
本当に強い人は、自分の落ち度で誰かに傷を負わせたことがあって、それを2度と繰り返さないように心に秘め、ただ黙々と罪滅ぼしとしての働きを、実行に移している人なのだ。
光を見つけた、と言ったオットの歓喜は、オットが亡くなるまで続いた。
最後は主にメールのやり取りだけになってしまったが、それだけであたしたち夫婦は何度も何度も救われ、前を向けたんじゃ。
そのメールのやり取りも含めて、ここでまたゆるりと紹介していくことにするぞ。
くまさん。死に行く婆さんの最後の愛情表現を止めないでおくれよ。
公にしてしまう功罪はあるじゃろうが、きっと良い方にむかうと信じておるけぇの。そろそろオモテに出てもいい年頃じゃよ^ ^
まだまだ続くよ
〜ゾンビより愛を込めて〜
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変な人がいるもんじゃろう( ´∀`) ↓↓ これが始まりじゃ。続けてお読みよ〜
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